こんにちは、うりぼうです。
本日は、仕事で疑問に思ったことを整理して解決したことを、備忘のためにまとめてみます。
お題は「PPAで無形資産を計上した時に繰延税金負債が発生する理由」です。
-そもそもPPAとは何ぞや?(デューデリジェンスとは何が違うの?)
-無形資産計上により税効果(特に繰延税金負債)が生じるメカニズム
-のれんに対する税効果会計の取り扱い
会計処理のマニアックな論点なので、ここら辺の論点に興味がある方のみ読み進めていただければと思います。
M&Aとは何ぞや
会社を自分のものにするという大きな買い物です。買い物の対象が会社そのものだったり、会社の一部だったりします。
会社は「法人」とも言われるように、法の下で生息する生き物です。
生き物である会社を売買する一連の取引をまとめてM&Aといいます。
取引対象が唯一無二の生き物なので、取引金額を決めるプロセスが複雑です。
我々が日用品などを買う場合は、比較対象が豊富にあるので売り買いする金額を決定しやすいです(オープンな市場の需要と供給によって価格が決まる)。
価格ドットコムやメルカリなどを使えば他の取引価格が簡単に参照できますね。
M&Aでは概ね、売り手:買い手=1:1の相対で金額が決まるため、第三者(FASと呼ばれているところですね)が価格を弾いてお互いが納得した金額で金額が決定されます(極めてクローズな市場の需要と供給によって価格が決まる)。
デューデリジェンスとは何ぞや?
買収の対象会社が過去にどういう活動していて(不正も含めて)、将来どういう働きをしてくれるか専門家が客観的に調べてお墨付きを与えてあげる必要があります。
過去・将来の稼ぎなどをもとに、これを現在の価値で算定するとどれくらいの価値があるのかの値決めを行うために評価してもらう必要があります。
この買収価格の値決めのための評価手続きをデューデリジェンスといいます。
(正確には、労務、税務、財務などの会社のオペレーションが適切に行われることで始めて活動が担保されるため、個別のDDもありますが、ここでは値決めの評価手続きに焦点をあてるため割愛します)
デューデリジェンスにも専門家を使って作業してもらう必要があり、相当なフィーが発生します(大きな買い物と記載しているのはこういう理由も考慮している)。
デューデリジェンスも買収先の会社の規模に応じて時間がかかります。
ある程度まで手続きを得て調べた上で、概算金額としての合理的な会社の買収価値を算定します。
PPAとは何ぞや?
デューデリジェンスを得て、算定された買収価値に基づき、実際に支払う金額(買収対対価)がうまくまとまり、売り手と買い手の間で売買契約が結ばれたとします。
会計上は、この契約に基づき、買収価値対価と純資産の差額を一旦のれんとして計上します。買収先の会社の価値の精査は慎重に行う必要があります。
なにせ大きな買い物ですから。買収前のデューデリジェンスにも時間がかかりますが、買収後にのれんの精査を含めて詳細を詰めていく手続きを行います。
買収後の子会社の資産負債を精査して評価し直したり、のれんに計上した金額の中にのれんとは区分して認識すべき無形資産があった場合にこれを分離する手続きをPPA(Purchase Price Allocation)といいます。
取得日から1年以内にPPAを完了させる必要があります。
PPAの例
買収対価1500を払って、ある会社を買収するとします。
買収対価1,500と純資産の差額がのれん(「中身がはっきりしない雑資産」とうりぼうは心のなかで唱えています)になります。中身がよくわからないが、買収側はこれに価値を感じて買うのです。
ここでは単純な例として、PPAの結果、資産負債の評価額は変わらず、買収対象の会社の資産にのれんとは分けることができる無形資産があったとします。無形資産は、顧客リスト、商標などブランドだったり様々ですが、これらからもたらされる収益を見積もることができる(売却したり、使うことによって得られる利益金額)ものに限られます。
のれんから分離するこの無形資産500は、PPA後はのれんから分けて振り替えます。
中身がよくわからないのれんに対して、価値がはっきりしていることでのれんから分離されるものを識別可能資産といいます。のれんは識別不能資産ですね。一般的にそう呼ばれないけれど。
無形資産に対して適用される税効果会計
さてさて、ここからが本題。
のれんから分離された無形資産500に対しては、税効果会計を適用します。
将来、この無形資産を処分した時に生じた利益に対しては税金費用が生じますが、会計上は将来生じるであろう税金費用を前もって計上します。発生主義に従い税金費用を前もって認識することを税効果会計の適用と言います。
実効税率を30%とすると、無形資産500に対して前もって税金費用が発生すると仮定すると、500*30%=150だけ税金費用が発生したものとされます。
税効果会計適用時の仕訳は以下の通り。
税金費用150/繰延税金負債※150
※繰延税金負債は未払法人税と区別するために使われる勘定です。
しかしながら、PPAに絡む税効果では繰延税金負債の相手方は税金費用ではなく、のれんとなるため以下の仕訳が正解です。
のれん150/繰延税金負債150
純資産と買収対価の差額はのれんとして扱われるため、たとえ将来子会社の処分時に無形資産の売却益に対して税金費用が発生するとしても、それはのれんとして扱われます。
ここは、頭ではわかっていても理解しにくい点です。
子会社単体からすると買収前後で何も実態は変わっていないのに、買収により連結修正仕訳でのれんやら無形資産がグループ全体では増えたことになります。
買収前からのれんや無形資産として評価される要素は子会社にあって、
潜在的には「税金費用xxx/繰延税金負債xxx」という仕訳は連結修正仕訳で起票される余地がありました。
しかしながら、買収後にフローの概念である税金費用の概念を持ってくるべきではないため、差額をのれんとするとも考えることができます。
誤:税金費用150/繰延税金負債150
正:のれん150/繰延税金負債150
のれんに対して税効果会計が適用されない理由
のれんから分離された無形資産については税効果会計を適用すると説明したのですが、無形資産ももともとはのれんから分離されたものに過ぎないのに、なぜ無形資産だけなのかと疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれません。
もし、のれんに税効果会計を適用した場合、PPA後ののれん500について税率30%で、
のれん150/繰延税金負債150
を計上するとします。
もし、ここで増えたのれん150に対して更に税効果会計を適用してしまうと、
繰延税金負債に対してのれんがさらに45(150*30%)だけ増えてしまい、
これに対して、以下の仕訳が*30%分だけ永遠に起票され続けてしまいます。
のれん13.5/繰延税金負債13.5
のれん4.05/繰延税金負債4.05
のれん1.215/繰延税金負債1.215
...(以下略)
無限ループですね。循環計算と呼ばれているやつです。
上記の理由から、会計上はのれんに対する税効果会計の適用をしないこととしているようです。
補足論点:税効果会計の種類
ちなみに、PPAに伴う税効果会計は、連結上の税効果会計が適用されます。
つまり、税効果仕訳(のれん150/繰延税金負債150)は買収先の子会社の財務諸表には何ら影響を与えません。
連結決算において、親会社と買収先の子会社を連結する際に調整される仕訳で、無形資産500/のれん500のPPA後の振替仕訳も連結上に起票される仕訳になります。 連結上は子会社の意思に関わらず、親会社が勝手に起票する仕訳(連結修正仕訳)ですが、子会社の財務諸表には何ら影響を与えないものと考えてください。
連結税効果:単体と連結決算上の差異※(↑の内容はPLアプローチで記載していますが、本来はBSアプローチなので、簿価の差異です)
※税務と単体決算上の差異が一時差異の内容ですが、当該一時差異の内容は連結修正仕訳にのみ反映されるということで、単体と連結上の簿価の差異という表現になっています。
c.f.)単体税効果:単体と税務上の簿価差異
まとめ
-デューデリジェンスは買収前に売り手の会社を精査する手続き、PPAは買収後に売り手だった子会社の資産負債を再評価し、のれんの金額を確定させる手続き。のれんを構成するもののうち、金銭価値を見積もることができる資産はのれんから分離して評価する。
-無形資産に対しては税効果会計を適用するが、のれんについては循環計算が起こるため税効果会計は適用しない。
-無形資産に対して税効果会計を適用する場合の借方は税金費用ではなくのれんとなる。
-PPAにおける税効果会計は連結税効果に分類されるため、単体決算で仕訳調整するのではなく、連結修正仕訳で調整する。
PPAも税効果の仕組みも整理して書いていたら理解できてすごい勉強になった。
途中、よくわからなくなったところもあるため、間違っている箇所があるかもしれないのでご指摘いただけると幸いです。
それではまたね。うりぼうでした。