こんにちは、うりぼうです。
ここ何回かのエントリでは、楽天モバイルをつかった普段使いのwifi環境の構築についての試行錯誤をご紹介しました。
一応、うりぼうの本業としては税務・会計がメインなので、今回のエントリでは楽天の決算書(有報、決算公告)その他リリース資料等をもとに楽天モバイルの今後の事業がどのようになるか(つまり、無料期間経過後に楽天UN-LIMITを使い続けるのかどうか)を検証してみたいと思います。
基礎知識
楽天グループのセグメントはインターネット、フィンテック、モバイル、本社の4つに分かれており、楽天モバイルはモバイル事業に組み込まれています。
▲2019年12月期 楽天有価証券報告書より抜粋
モバイルビジネス全体の展望については、MNOを手掛けている楽天モバイル単体というよりもむしろ、通話用アプリを展開している楽天コミュニケーションズやViberも含めてモバイル事業全体を見ななければなりません。
しかしながら、直近のNMOの成長性という点においては基地局の絶対数(=通信速度と通信範囲のカバレッジ)がキーポイントとなりますので、該当箇所が記載されている楽天モバイル単体の決算書を検証していくこととします。
他のキャリアと比較した場合の楽天モバイルの実力値について
楽天モバイルUN-LIMITの無料サービスが終わる1年後に基地局等の建設の進捗がどうなっているかを確認する必要があります。
ちなみに現在、楽天モバイルにて基地局の建設の認可が下りている基地局の電波帯は、1.7GHz、3.7GHz、28Ghzの3つです。4G/LTEに適した電波帯を使用できる各社の基地局数の比較を行います。
まずは、2019年12月末時点で4G/LTEを提供している各社の実力値を見てみましょう。
数字は4G/LTEの基地局数を表しています。数字が大きいほど全国各地におけるサービスのカバレッジ(つながりやすさ、通信速度の安定性など)を示すものと推測します。
出典/総務省「和元年度 携帯電話及び全国BWAに係る電波の利用状況調査の評価結果の概要」p.7に記載の図より筆者(うりぼう)にて加工
楽天は29基と、各社に比べて圧倒的に少ないことが伺えます。一方でリリースなどで公表されている局数を確認すると、3,432と大きく異なります。
総務省のレポートは12月時点のものですが、データがいつのものかは定かではないため、時期の問題も含んでいる可能性もあります。
しかしながら、下のソフトバンクのリリースにより差異の一部は解消しそうです。総務省が公表している基地局数と自社のリリースが大きく異なる理由を説明しているものです。
上の基地局数は基地局(親)にあたるもので、各社が公開しているものは、中継局や屋内基地局(子・孫)に該当するものも含めているからという理解です。
基地局数に関するお知らせ | お知らせ | ニュース | 企業・IR | ソフトバンク
▼大型の鉄塔タイプが親とすると、ビル設置タイプ、小型基地局、屋内基地局が子や孫に該当するものと推測します。
出典/総務省「携帯電話基地局とわたしたちの暮らし」p.5より抜粋
https://www.tele.soumu.go.jp/resource/j/ele/body/1-01.pdf
なるほど、各社は、通信のカバレッジという点においては、付属設備を含めた実力値を伝えるのが適切と考え、中継局や屋内基地局も基地局に含めて発表しているのでしょう。
2019年度の楽天の有報の「設備の状況」を参照すると、この基地局数29基にあたる簿価が参照できるため、将来の設備投資計画に照らすと将来的にどれくらい増えていくのか(使いやすくなるのか)が検証できます。
直近(2019年12月末の設備投資状況)
主要な設備の状況
将来(2029年3月末の設備投資状況)
重要な設備の新設等(単位:百万円)
2029年3月31日時点の基地局数等については、総務省「第4世代移動通信システムの普及のための 特定基地局の開設計画の認定について」p.6参照
(楽天の投資予定数に基づくもののため、基地局、中継局、屋内基地局など含めたものと推測されます)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000544012.pdf
基地局数は、今後約10年で昨年末から8倍の規模に増加していくようです。
(基地局の1基あたりの原価を算出したのは、楽天提供の基地局数の建設予定のデータを検証するためです。昨年度の実績から算出した1基あたり原価から大幅にはズレていないため信頼できそうです。)
冒頭に、楽天に割り当てられた基地局の電波帯は1.7GHz、3.7GHz、28Ghzの3つとお伝えしました。
この電波帯は数字が大きくなればなるほど大容量の通信に適したものになります。特に28Ghzは5G専用で進めているものと推測されます。
楽天モバイルは現在の4G回線について、この1年内で大都市圏を中心に使えるレベルまで基地局数を増やしていって、これと並行して5G回線の基地局を増やしていくという戦略なのでしょう。
つまり、4G回線では他のキャリアに大幅に劣るが、5G回線で挽回を狙う。そのために通信量1年無料という特典を与え、今のうちに囲い込みを行うということです。
楽天モバイルは、今回の300万人無料キャンペーンを窓口に、無料という言葉で抵抗感をなくした状態で申し込みを行わせ、いざ有料となった際に新しいこと、つまり他のキャリアに切り替えることを避けたい欲求を利用し、楽天モバイルを保持し続けさせる行動を狙っているのでしょう(いわゆる、現状維持バイアスを使った無料商法ですね)。
無料対象の300万人に届かなかったとしても、母数が多いほどそのうち1年後に一定数は使い続けてくれるため、将来の資金稼得の目処がつきやすくなります。将来キャッシュ・フローの予測がしやすいということはこれまでの借り入れも容易になることでしょうし(どのみち親会社からの借り入れにはなると思いますが)。
各社の今後の設備投資計画について
他社の設備投資計画については、有報の設備の状況からはこれが4G、5Gに対する基地局なのかが区分されておらず、また、楽天が将来10年間の累計、他の各社が今後1年間というように単純に設備投資計画を比較することができませんでした。
そんな中、総務省の公表したもので参考にできる資料がありました。
2019年4月時点のもので、直近での各社の5G基地局の整備割合になります。
総務省「第5世代移動通信システム(5G)の導入のための特定基地局の開設計画の認定」p.9より抜粋・加工
https://www.soumu.go.jp/main_content/000613734.pdf
2019年4月時点のものですが、5G回線に使うための周波数帯の割当に際して、基地局数4,500基を基準として50%超に達していることが周波数帯の割当許可の基準となっていました。docomoとauはダントツですが、Softbankと比較するとあまり大差がないことが分かります。
この総務省の資料内に「財務的基礎」という項目もあり、有報の10年間の投資計画8,000億円はここから参照されていることが分かります(本体の出資と銀行借入なんですね)。
ただ、今後の5Gサービスの基盤で各社比較した時に、楽天も5Gのための周波帯割当の基準を満たすための最低限の基準は審査時に満たしており、5Gのみに絞ってみると見劣りはしません。
まとめ
ごちゃごちゃ書いていますが、結局結論は、
楽天モバイルUNLIMITの無料プランは、楽天モバイルにとって5G回線のための布石にすぎない。都市圏を中心に使えそうな人は4G回線をお試しで使ってみて、使えそうだったら5Gで継続的に使い続けるのか判断するのがよい。
使えそうにない場合、他のキャリア、MVNOなど最安プランを契約しておいていつでも逃げられるようにしておくのがベター。
です。
▼結論(詳細)
- 楽天の設備投資計画から、楽天モバイルは4G回線への投資は積極的に行わず、都市圏を中心に最低限使える程度に整備していくことが推測される。5G回線への投資に比重をおきながら4G基地局と並行して投資を進めていくよう。
- 楽天モバイルは、現状、4G回線は大都市圏では問題なく使える水準だが、大都市圏以外でも1年間はUN-LIMITの無料期間があるため試しに申し込む分には問題ない。
しかしながら、自分の滞在エリアで通信が滞るなど想定通りの使い方ができなかった場合に、他のサービス(MVNO、キャリア)にスイッチングできるように目処はつけておく(データ通信のみで最安プランのみの契約のみ維持しておくなど)必要がある。 -
5G回線については現状各社の設備投資はほぼ同じ水準からのスタート(docomo、auがやや上回っている)。1年後の楽天モバイルの5G回線については都市圏については各社と比較して大差ない水準になっていることが予想される。
今回、うりぼう自身あまり詳しくない通信の分野を勉強しながらまとめてみて大変苦労しました。ほしいデータが簡単に手に入らないため、別の使えそうなデータを使って推測するなどせざるを得ませんでした。
公のリリースに基づいていたとしてもリリースのタイミングによって数字が大きく異なっていたりしたため、数値の確からしさを検証することは必要だと思いました。
業界特有の専門用語が多々使われていたりと、一般人にとっては混乱させられることが多いため、言葉の定義もはっきりさせた上で検証する必要があります。
自分が仕事で関わっている分野も、通信ほどではないですがかなり特殊で、慣れるまでにものすごく時間がかかりました。対外的には特殊であるのは間違いないので、対外的な説明にはうっかり専門用語を使わないようにしないように気をつけないといけないなと思いました。
それではまたね。うりぼうでした。